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“ Burning tree ” / GRAPEVINE

先月28日にリリースされたGRAPEVINE(以下バイン)の約2年振りのニューアルバム『Burning tree』。今作品で13枚目。そしてレーベル移籍後初のアルバムでもあり、発売前から大きな注目を浴びていた。実際に「大傑作」と唸る音楽ライターの方々の声を、雑誌やTwitterで目にする度に「早く手に入れたい!」という気持ちを抑えきれなかったリスナーが、大勢いたのではないかと思う。勿論、私もその一人だった。

決して派手なアルバムではないが、オープニングを飾る“Big tree song”が、所々に加わる打楽器や、メンバーによるハンドクラップも入ったことでハンドメイド感が強く、温かみと、何より生命力に溢れており、そこに“KOL(キックアウト ラヴァ―)”と爽快で浮遊感あるギターロックが続いた事で、久しぶりに「ポップなアルバムだ」という手応えを感じた。しかし、この期待を良い意味で裏切るような、冷ややかな空気を纏うサウンドに合わせ、心理描写を歌う“死番虫”と、アコギとピアノのアンサンブル、その裏で鳴り続けるストリングス(チェロ?)という美し過ぎるイントロから胸が締め付けられ、思わず目が潤んでしまった“Weight”が、心の深い部分をゆっくりと抉り続けていく。中盤にかけては、移籍ソング“Empty Song”の勢いのある分厚いロックンロールに、80年代のディスコ・グルーヴを強く感じさせる“MAWATA”など、ライヴでノれる楽曲もあり非常にバラエティに富んでいる。しかし、アルバムの後半には、スケール感のある、壮絶なバンドアンサンブルが淡々と展開されていく。彼らが積み重ね上げてきた全てから、余計な物を削ぎ落とし、更に磨き上げたバインにしか描き出せない音風景。そして、ラストの”サクリファイス”を聴き終えた後「感無量」という言葉しか出てこなかった。

そして、そこに一人ぽつんと立つ、このアルバムの主人公がいることに気づく。ヴォーカル・ギターの田中和将だ。私が、このアルバムの「リリック」に注目せざるを得なかったのは、彼が今の自分自身を、素直にさらけ出してしまっていたからだ。

前作『愚かな者の語ること』では内輪ノリ的な内容の歌詞が多かった。バンドメンバーとのセッションから曲作りが始まり、出来上がった曲に合わせ言葉遊びを交えながら、実験感覚で言葉を乗せていく。そんな空気感が全体的に漂っている。しかし『Burning tree』では、今の田中そのままの姿が、切々と綴られている。彼に芽生えた父性が、次の世代への愛や希望を願う。また、20年以上バンドマンをやってきたキャリアから見える自分自身に、どこか諦めを感じながらも、自問自答を繰り返す事で「生き抜いてやる」という底力を見せる。その背景には、明らかに彼が「死」を意識している事も実感できる。そして、メロディに乗る彼のヴォーカルからは、静かな情熱がひしと感じられるのだ。

かつて、田中が自分自身の過去と向き合い、初めて作品として生み出したのが3rdアルバムの『Here』である。表題曲の“here”では、自身の過去を辿り、もがき続ける心模様を淡々と描きながらも、<君や家族を/傍にいる彼らを/あの夏を そういう街を/愛せる事に今更気付いて>と「受け入れよう」と、最後の最後で力強く放つ。ところが、私はこの『Here』をどうしても好きになれなかった。どことなく痛々しく、何度聴いても辛い気持ちになってしまう。そんな単純な理由だ。しかし、それ以降のバインを聞き続けていくうちに、田中にとっては、音楽の中で過去と向き合うことが、大切な作業である事を実感していく。『Here』以降の作品にも、彼のもがきは顔を出すが、そういった過程の中で、表現者として確実に成長を遂げていく。そして、『Burning tree』で彼は、今でも一人抱えているであろう哀しみや痛みを、アルバムのテーマに変えたように感じる。それは、時と共に「受け止め方」が変わったと言えるし、何より、優れた作品を生み出そうとする、ミュージシャンとしてのプライドが、垣間見えるのである。

アーティストが表現し続けていく中で、作品に身を投げ出さねばならない瞬間は、必然的に起こってしまう事なのだろう。自分をさらけ出す事は、言ってしまえば一つの「賭け」だ。独りよがりになってはならないし、第一受け入れてもらえるか、今まで付いてきてくれたリスナーの反応が、アーティストの未来を決めてしまうとも言い切れる。しかし、さらけ出すことによって、歌詞に奥行きにが生まれ、サウンドはさらに成熟する。リスナーから見ても、アーティスト像が明確になることで、生み出されたが作品がよりリアルに心に届くのだ。

今回、田中の書いた「リリック」は、曲のクオリティを上げる為の選択肢の一つだったとしても、人間臭いこのアルバムを聴いて、何も感じる事の無い人はいないだろう。なぜならば、内に秘めた情熱がさらけ出されたことで、バインは自らが<燃えるような存在(サクリファイス)>であることを、はっきりと証明しているからだ。曖昧さを好むバインが見せた生々しさは、人を強く惹き付ける。間違いなく、私の人生に於いても確実に、響き続ける一枚になるだろう。


Burning tree (初回限定盤)

GRAPEVINE/ビクターエンタテインメント

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Burning tree (通常盤)

GRAPEVINE/ビクターエンタテインメント

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Commented by hirobrown at 2015-02-13 01:13 x
初めましてのバインファンです。

僕もこの作品は久しぶりに人生を通して長く聞いて行く作品になると思います。「Another Sky」が僕にとっては長く聞いてるアルバムなのですが、今作は久しぶりにスルメな気がします。(笑)

あと「KOL」がアルバムに入ってる方がしっくりくる感覚があるのも不思議な感じです。僕的には「Weight」が1番好きですね。昔ながらの感じもあるからでしょうか。

僕もブログをやっているのですが、よろしければ相互リンク登録させてもらってもよろしいでしょうか?

僕は「音楽と人」も、ブルーレイも一緒に買ったので、自分のブログでレビューしてみました。表記されているURLでアップしてますんで良かったらご覧ください。
Commented by musicorin-nirock at 2015-02-15 18:26
hirobrown 様
お返事遅くなり申し訳ありません!
Burningtree、最高傑作だと思っていて。その想いをそのまま綴らせて頂きました。
相互リンク登録、よろしくお願いいたします。
やり方に慣れていないので、ちょっと私は時間がかかってしまうかもしれませんが(笑)。
ブログも拝見させて頂きますね。
by musicorin-nirock | 2015-02-04 21:43 | MUSIC | Comments(2)

ライヴレポート中心。GRAPEVINE と NICO Touches the Walls 、the HIATUS が好きです。記事の無断転載、引用はご遠慮ください。


by タナイユウ
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