2015年 01月 26日 ( 1 )

“ IN A LIFETIME ”/ GRAPEVINE





2014年5月19日、渋谷AXで行われた『IN A LIFETIME』。このライヴは、2ndアルバム「LIFETIME」の再現ライヴと、新旧の楽曲を織り交ぜたセットリストを組んだパートの2部構成であり、同年春よりレーベルを移籍したことも発表された、GRAPEVINEにとって大きな区切りとなるライヴだった。今回再現されたアルバム「LIFETIME」は1999年にリリース。“スロウ”や“光について”といったGRAPEVINEの代名詞的シングル曲が収録され、オリコンランキング第3位というセールス記録を出し、発売から16年経った今でもなお人気の高い一枚である。事実として、『IN A LIFETIME』のチケットはソールドアウトする会場が続出し、バンド史上初のビルボードでの公演も開催されたのだ。

しかし。このライヴは、「LIFETIME」というアルバムが90年代後半のミュージックシーンを彩った代表的なアルバム、という事実だけを語っただけではない。GRAPEVINEというバンドの過去/現在/未来を大きく結びつけると同時に、改めてGRAPEVINEと彼らを取り巻く全てを繋ぎ止める、まるで一つの物語を辿らされるのような時間でもあったのだ。


実際にこのライヴの観客の一人であった私は、まず、アルバムの1曲目から曲順通りに披露されていく展開に驚き、一曲一曲聴き終える毎に深い部分へと引きずり込まれていった。MCも1曲目の“いけすかない”の間奏部分で軽く挨拶をしただけ。淡々とライヴは進んでいったが、あまりに密度の濃い空間で、15年前「LIFETIME」を手にした、まだ10代だった記憶が必然的に蘇り何度も目頭が熱くなった。ところが、徐々にノスタルジーに浸る余裕なんて無くなっていた。豊潤なメロディに乗るのは、相反するような孤独感の強い言葉達。ブリティッシュ・ロック色を意識したのか、ギターが強く前に出ている楽曲が多めだが、時折腰にくる重低音の響きから感じられるR&Bやソウルの要素。見えなかったものに気が付く度に、長年愛聴してきたアルバムだったにも関わらず、初めて手にした時と同じような衝撃が走った。

ステージに立つのは、全てを包み込むよう歌い上げる田中和将(Vo&G)。その姿には精神的な成長と新たに芽生えた父性が感じられる。いつになくしなやかに、聴く者全てを陶酔させてしまう声と表現力の豊かさには、ヴォーカリストとしての実力を見せつけられる。西川弘剛(G)は、ステージ上の誰よりも落ち着いた佇まいではあるが、その姿が非常に渋く、全身痺れさせる音を鳴らし続ける。そして、積み重ね上げてきた全てが刻み込まれているような、どっしりとした重たいリズムを生み出す亀井亨(Dr)。3人の姿にはGRAPEVINEを貫いてきた力強さが、確実に感じられた。ここで一つ付け加えたい事実がある。このアルバムの制作・発売当時は“リーダー”こと西原誠(B)が在籍していた。持病のため自らリーダーを務めていたバンドを去らなければならなかった西原は、苦渋の決断がもたらした苦悩を、再現ライヴのツアーパンフレットで語っていた。西原が当時を振り返りその想いをリスナーに伝えた決断。それは、彼にとっても大切なアルバムであると同時に、メンバーそしてリスナーにとっても、GRAPEVINEを語る上で欠かせない人物なのは変わりないと、確かめ合うためだったのかも知れない。西原の脱退後、残された3人も悲痛な思いであっただろう。「解散」という選択肢があってもおかしくはない。しかし彼らははバンドを辞めなかった。サポートメンバーに金戸覚(B)と高野勲(Key)が加わった事でバンドサウンドは一気に深みを増す。そして、GRAPEVINEはキャリアを重ねる毎に、他のアーティストには希に見られない音世界を創造し続け、不動の境地にまで上り詰めた。2014年5月19日、閉館が決まった渋谷AXのステージで披露された15年目の「LIFETIME」は、それをまんまと証明したのだ。


私は10年以上彼らのライヴに通い続けているが、GRAPEVINEのライヴでは、オーディエンスが自由に何かを受け取り、何かを感じることができれば、それで良いとされる空気が常にあったように感じている。一人一人に浮かび上がってきた様々な想いこそ、実は何にも代えがたい自分だけの真実なのだという事に彼らは気付かせてくれるのだ。


GRAPEVINEの楽曲には大衆的なメッセージはほぼ存在せず、裏を返せばわかり辛い。しかし、彼らは長いキャリアに於いて、このスタンスを一切変えようとはしない。ステージをキャンバス地に例えるとしたら、5人はそれぞれ緻密な作業を続け、幾十に色が重なり合い、誰も想像がつかない美しさを描きつづける。完成された作品はどこか曖昧さを残したままで、彼らは観客にサラリと差し出す。そこに描かれた大がかりな音の世界は、恐ろしいほどに、聴き手の心を侵食していく。そして、メンバーと言えば、全てが終わると余韻に浸る間もなくステージを去る。残された観客達を困惑させたままにして。

この『IN A LIFETIME』の場合、レーベル移籍の発表あったため、終演後のフロアには異様な空気が充満していた。私自身も、ただ自分のいる場所に茫然と立ち尽くしていた。それから数日経って、私はあのライヴを思い返してみたのだ。あの時「演奏をする/演奏を聴く」というシンプルなコミュニケーションを通じ、冒頭で述べた様に、10代の自分自身との対峙し、「LIFETIME」のクオリティの高さを改めて思い知った。10代の頃は何も気にせず、ただGRAPEVINEを聴き過ごし、またそれから10年以上も彼らを追い続けるとは考えもしなかった。しかし、15年後の確実に歳を重ねた自分が当時の憧れを再び目と耳にした時、GRAPEVINEが「これで良かったんだよ」と、これまでの人生を肯定してくれたような、非常に感慨深い気持ちが溢れ、そして、再び前に進む力を私に与えてくれたのだ。GRAPEVINEリスナー、一人一人に彼らと出合ってから今までの物語がある。その期間が短かろうが長かろうが、両者をつなぎ止めるものは「信頼」だ。その「信頼」が確かな物である事を『IN A LIFETIME』によって、誰もが気づけたのではないだろうか。


時代と共に音楽が生まれる。アーティストはその最先端を目指し、誰よりも早く新しさを創りだそうと、日々もがき続けている。リスナーにとっても新しさを手に入れることは、刺激的で、常に楽しさを運んでくれるものであり、そのスピードは、近年どんどん加速している。その傍らで、GRAPEVINEは今年でデビュー18年目を迎えた。しかも、混沌とした渦の中にいる多くのミュージシャンに敬愛されているバンドである。それは、音楽の本質を手にしているからこそ得られた強さなのだと言えるだろう。そして、その本質を今、教えてくれる唯一のバンドが、GRAPEVINEなのだと思う。
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by musicorin-nirock | 2015-01-26 22:08 | LIVE DVD | Comments(4)

主にNICO Touches the Walls について書いておりますが、他にはGRAPEVINE と the HIATUS が好きです。記事の無断転載、引用はご遠慮ください。


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