2015年 10月 24日 ( 1 )

9/12 GRAPEVINE@日比谷野外大音楽堂

数日前の大雨が嘘のような晴天に恵まれ、会場に到着するとセミの大合唱が私を迎えた、2015年9月12日。6年ぶりのGRAPEVIVE、日比谷野外大音楽堂ワンマンライヴ。

最新アルバム『Burning tree』の1曲目を飾る“Big tree song”でライヴの幕が上がり、“放浪フリーク”“真昼の子供たち”と、いつになく優しい空気が会場には広がる。オーディエンスを見渡しながらにこやかに歌う田中和将(Vo&G)を観ていると、自然と微笑み返したくなるほどの幸福感で胸がいっぱいだった。そして、亀井亨(Dr)が力強くドラムを叩き出し、西川弘剛(G)が眩い光のようなギターを鳴らし始めると、バンドのギアが切り替わったことがわかる。4曲目は“Glare”。<たかが満ち足りた世界で/胸がいっぱいになって/見たろ光を/走り出したくなって正解だ>と精いっぱい歌い上げる田中の声は、拭い切れぬ哀しみを歌い続けてきた過去よりも、ただ今を「生きたい」というひたむきな意志が強く感じられるものだった。そんな彼の背中を押すように、生命力溢れるバンドサウンドが会場一帯包み込むと、ライヴはまだ始まったばかりなのに私は涙が止まらない。しかし、強烈な余韻を残しながらも、奇天烈なギターリフを皮切りに始まった“コヨーテ”がブルージーな世界へと導き、金戸覚(B)の低音が炸裂する“冥王星”でフロアは熱を帯びていく。そこにノスタルジックな風を呼び込んだのは1997年リリースの1st Single“そら”。色褪せるものなど見当たらない。ただ、彼らの軌跡を感じさせるどっしりとした演奏だった。

曲の合間にビールの進む手が止まらない田中のMCは「飲めよ飲めよ」と言わんばかりに、売店の閉店時間が19時半までとご丁寧に何度もアナウンス。また、今のうちにビールを買っておけよと促す内容で大半が占められていた(笑)。そして、田中が一通り話し終えるとメンバー各々体制を整えバンドは演奏をスタート。先ほどまでとは別人のように、田中は歌い始めるのである。あまりに大らかにステージを進めるその様は、驚くというよりも、私は「さすがだ」としかもう言えない(笑)。例えば自身の生き様や、ロックバンドの在り方をMCを使って語り始めるバンドマンは数多くいる。ところがGRAPEVINEの場合は、この通りほとんど皆無である。彼らが腹の奥底に抱える情熱は、鳴らされるサウンドだけで存分に表現できてしまうのだ。その姿勢が顕著に表れていたのが”無心の歌”から始まった本日のディープゾーン。中でも一際異色を放っていた“SEA”は圧巻だった。重みのある鍵盤を高野勲(Key)が奏で、ゆったりとした波のようなアンサンブルが続く。ギリギリの精神状態を、冷めた表情で淡々と田中は歌い、どことなく漂う緊迫感。いつの間にか、催眠術にかけられたかのように、私の体は硬直し始める。この曲の前後に数曲演奏されているのだが、記憶と呼べる記憶が、私には正直見当たらないのだ。派手な演出などなかった。ただ、5人で紡ぎ出す音の引力によって、心が蝕まれてしまい、平常心を取り戻すのには、しばらく時間が必要だった。

だからきっと体内にアルコールを入れつつ、緩めのMCを挟んだほうが、メンバーもオーディエンスも精神的に楽なのかもしれない。「どうぞ皆さんご自由に今日のライヴをお楽しみ下さいね」ーーこれがGRAPEVINEお決まりの(暗黙の了解に近い)ライヴスタイルで、オーディエンスの様子も自由。会場は指定席であったため立って観ている人はもちろん、座って観ている人もチラホラいる。途中、席を外していた人を見かけたが、果たしてビールを買いに行ったのだろうか(笑)。曲の合間にそっと辺りを見回すと、GRAPEVINEを長年聴き続け、彼らと共に歳を重ねてきたであろう、いい大人の顔ぶればかり。その雰囲気に「ほっ」と安心していた、私もGRAPEVINEと共に歳を重ねてきた一人。

「日比谷に捧げる”This town”!」とお馴染みの前振りからの後半戦は、久しぶりに夏の暑さを取り戻したこの日のための“夏の逆襲“から、”KOL”“ GRAVEYARD”とオーディエンスを再び沸き上がらせて行く。そこにストンと落とし込んで来たのがPermanents(田中の高野のユニット)では最近では良く耳にしていた“smalltown,superhero”。田中の少年時代を歌う曲ではあるが、緻密なアンサンブルに乗る歌声には、現在の父親としての表情を覗かせていたような気がした。そして、本編ラストは“超える″。バンドの生き様をまじまじと見せつけるかの如く、ダイナミックなサウンドが大都会の夜空に響き渡る中<今限界を超える/そのくらい言って良いか>とガツンと決めた最後のサビ。その時、私は彼らのことを心から誇らしく思った。

私にとってGRAPEVINEとは心の特効薬である。ロックバンドに興味を持ち始め、彼らと出会った10代後半から15年以上、GRAPEVINEのサウンドがとことん心に効くことで何度もピンチを乗り越えてきた。そして、いつのまにか私の人生の節目には必ずGRAPEVINEが側で鳴っていて、切っても切れない不思議な縁が出来上がってしまっていた。ただ、彼らと同時期に出会い好きで聴いていたバンドのいくつかは、残念ながら既に解散をしている。この現実をふと思い出し、GRAPEVINEに出会ってから17年後、私がこの日を迎えられたことは奇跡のようなものだと気付くと、“超える”が演奏されている最中、急に感慨深さに襲われた。自らの表現に対する使命感を持ち、着実に可能性を広げながら、天邪鬼な姿勢を貫き続ける孤高のロックバンドは、メジャーデビューから18年間、時に荒波に揉まれながらもぶれることなく続いている。それを確信づけるかのように<今限界を超える/そのくらい言って良いか>と放てる姿は、あまりに格好良すぎるだろう。目から涙はこぼれなかった。しかし、私は胸の高まりを抑えることができなくなっていた。

温かな拍手に迎えられアンコールのステージに登場したメンバー。すると聴き覚えのあるベースのイントロに、ふわりと歓声が上がった。1曲目は“君を待つ間”。離れて暮らす恋人に向けた苦くも瑞々しい想いを、酸いも甘いも知ってしまった四十路を越えた主人公が当時を懐かしむよう歌う姿は、オーディエンスの恋の古傷にも、ちくりと沁みるものがあっただろう。しかし次の“RAKUEN“で見せたものは、歳を重ね、背負わざるを得ない代償をシリアスなロックンロールで提示していく姿だった。そしてアンコールのラストは“ふれていたい”。これが、最大級の多幸感に包まれた、どこまでも優しいエンディングだったのだ。思い返してみると、今から14年前に私が初めて行ったGRAPEVINEのライヴには今のような緩さはなかった。フロアから黄色い声が上がっても、メンバーはどこか素っ気なかった。しかし、メンバーも歳を重ね、彼らを聴き続けてきたオーディエンスも、同じ年数歳を取った。それを互いに確かめ合えたからこそ、緩さの中にも身をわきまえた心地よい大人のグルーヴが、日比谷野外大音楽堂には溢れていた。そして、「ファンと共にこの時まで歩いて来た」という想いが彼らにあるのならば、それがGRAPEVINEにしか鳴らせない「優しさ」なのだろう。「みんなで同じ方向を向かない(田中のMCより抜粋)」バンド、GRAPEVINEではあるが、サビの<ふれてイエーいよう!>の部分では自然と沢山の腕が上がっていた。その全てに応えていくよう、笑顔で歌い続ける田中を観ていたら、そう信じずにはいられなかった。


***

10代の頃からの憧れている人たちが、今も変わらず現役で新しい音楽を生み出し、ステージに立ち続けていることは、驚くほどの莫大な力を私に与えてくれる。そして、今回の日比谷野外大音楽堂ワンマンライヴで、この関係はきっとこれからも、ずっと続いていくのだと確信し、GRAPEVINEと出会えたことへの感謝の気持ちでいっぱいだ。


SET LIST
1 Big tree song
2 放浪フリーク
3 真昼の子供たち
4 Glare
5 コヨーテ
6 冥王星
7 そら
8 無心の歌
9 MAWATA
10 おそれ
11 壁の星
12 SEA
13 愁眠
14 This town
15 夏の逆襲
16 KOL
17 GRAVEYARD
18 smalltown,superhero
19 超える

ENCORE
1 君を待つ間
2 RAKUEN
3 ふれていたい


[PR]
by musicorin-nirock | 2015-10-24 00:03 | LIVE | Comments(0)

主にNICO Touches the Walls について書いておりますが、他にはGRAPEVINE と the HIATUS が好きです。記事の無断転載、引用はご遠慮ください。


by タナイユウ
プロフィールを見る