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NICO Touches the Walls メジャーデビュー10周年に寄せて



思い返せば5年前。2012年11月25日に開催された『1125の日ライブ』が始まりだった。ライヴの対バン相手はGRAPEVINE、会場も自宅近くの横浜BLITZという理由で行くことを決めたのだ。何事もタイミングが重要と言うが、それは普段耳にする音楽だってそうだ。実は2006年にとあるイベントで私は彼らのライヴを一度観ていて、その時は特別何も感じなかった。それが今ではリリース音源は基本買っているし、ツアーが始まれば遠征することもある。正直ここまでハマるなんて思ってもみなかった。

☆☆☆☆☆☆


5年前のイイニコの後、バンドの過去を辿るよう音源を聴き続けていると、思わず口ずさみたくなるグッドメロディばかりであることに驚いた。しかもそのメロディを、聴いてるこちらの脳内で永遠ループさせるかのような中毒性のある歌い回しで、ヴォーカル&ギター光村龍哉は歌うのだ。「ロックバンドのヴォーカルでこんなに歌が上手い人がいたのか!」と驚きつつも、光村の影響受けた人物が日本を代表するロックスター桑田佳祐やスピッツの草野マサムネであることや、邦楽のみならず洋楽を身近に感じられる環境で育ったことを知ると、その歌声に秘められている魅力に気付くたびに、腑に落ちることがたくさんあった。

とある音楽雑誌のインタビューでは「マニアックな洋楽のライヴに行くと、必ずと言っていいほど(光村は)いる」とインタビュアーに指摘されていたが、貪欲な音楽リスナーでもある光村が主にバンドの作詞曲をしていることを考えると、彼の頭の中にある多大な音楽知識を生かしながら、アレンジも生まれていくのだろうと想像がつく。つまり、光村の理想を具現化するために、ギター・古村大介、ベース・坂倉心悟、ドラム・対馬祥太郎の3人が、汗の滲む努力と苦労を重ねていることは紛れもない事実。しかし、誰よりも光村のことを信頼し理解し才能を認めているのは、もちろんこの3人であり、彼らの努力あってこそのニコであることも、ここ数年のライヴからはっきりと分かるようになった。

ニコの努力の賜物であり、今やバンドの強みになったものがコーラスワーク。例えば“夢1号”のイントロには10ccを彷彿させるコーラスが入るのだが、5年前のイイニコで初披露されたときも、それ以降のライヴで聴いたときも、まだどこか危うさを感じ、かなりの練習を積まなければ彼らが目指す世界観を描くのは難しのでは?と正直思ってしまった。しかし、今年の2月から5月にかけて開催された全国ツアー『Fighting NICO!』に初参加したその日、久しぶりにライヴで聴いた“夢1号”には、心の中でどよめきが起きた。会場一帯になめらかに美しく響き渡る歌声に酔いしれつつも、その背景にある個人/バンドの成長がとにかく感慨深い。数分前までジャンプしたり、拳を振り上げていたオーディエンスも、じっとその場に立ち尽くしながら聞き耳を立てていた。

昨年リリースした6th Album『勇気も愛もないなんて』にも、コーラスを大胆に生かした楽曲が収録されていた。それが、“エーキューライセンス”である。サビにゴスペル調のコーラスが入り、しかもサビから曲が始まるのだから、ライヴとなればかなり緊張の強いられるはず。しかし、ハーモニーが見事に決まったときに見せるメンバーの笑顔から伝わるものは、ナチュラルに今この瞬間を楽しんでいることだけだった。

いつからか、ニコのライヴに行くと、まるでバンドを組んだばかりの高校生のような初期衝動を私は感じるようになった。当然、コーラスは自分のメインのパートではないのだが、そもそもの音楽やライヴを楽しむ想いがバンドに新鮮な風を吹かせ、それがリスナーのもとへ届くのだ。

その発端はなんだろうと考えていくと、2015年発売のアコースティックアルバム『Howdy! We are ACO Touches the Walls』の存在が浮かび上がる。新たな命を吹き込むように既存の曲にアレンジを加え、再び曲の魅力を開花させた。そして、この経験によって彼らは味を占めてしまったのか、それ以降のライヴでも次々と新しいアレンジを施した曲を披露。しかも、ワンマンライヴに限らず様々な音楽ファンが集うフェスという場でもやってしまう。

今年はレコーディングにプロデューサーとして参加している浅野尚志が『Fighting NICO!』のホール公演に参加し、同じく夏フェスのステージも5人で上がり続けていた。私は8月に開催されたROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017に行き、特に聴き応えを感じた曲は、浅野がヴァイオリンで参加する”THE BUNGY”と”天地ガエシ”だった。“THE BUNGY”はロカビリーとクラシックを掛け合わせたアレンジで一段と勇ましくライヴのオープニングを飾り、”天地ガエシ”では原曲よりも早いBPMかつバンドのテンションも相まってサウンドの激しさが増し、アイリッシュ・バンクに激変。バンドに煽られるようにモッシュやサークルが発生したのは時代を物語っていたが、敢えてそこを狙ってアイリッシュなサウンドアプローチをしたのだろう。また、単に観客を盛り上げるだけではなく、ミドルバラード”夏の大三角形”やメンバーによりドラムセッションからの”マシ・マシ”であったりと、バンドのコアな部分も隙間なく見せていた。

フェスとなれば多くのバンドが代名詞的シングル曲群を演奏する。しかし彼らの場合は、ソウル、ファンク、ブルース、ジャズ等を昇華させた独自のアレンジで再構築したものを披露した。もちろん原曲とほぼ変わらない曲もあったが、1人サポートが入るだけでも演奏のスケールは拡大。今やフェスが中心となって回っている音楽市場。ロッキンのような巨大フェスとなれば、決められた時間内で自分達をどうプレゼンするかが、今後のCDセールスやワンマンの動員数が決まると言っても過言ではない。しかし、そんな時代に媚びを売るわけでもなく、まるで挑戦状を叩きつけるかのように、自分達がやりたいように楽しむニコのライヴパフォーマンスは、今の音楽シーンへのカウンターと言える。

つまりニコは「良い音楽を鳴らしていればリスナーには必ず伝わる」というプリミティブな信念を持ったバンドなのである。彼らは長年、深い場所まで掘り起こすよう真摯に音楽と向き合い続けきたが、その信念を貫こうとすればするほど、逆に誤解を与えてしまうこともあった。インディーズ時代やメジャー初期の楽曲だけを聴けば、オルタナティヴ志向のロックバンドであると誰もが認めると思う。しかしニコの(光村の)描く理想郷にはポップが必要だからこそ生まれたシングル“ホログラム”や2nd アルバム『オーロラ』以降変化する作風が、「ニコ変わっちゃった」とリスナーを戸惑わせる要因にもなってしまっていた。

ところが、2017年に入ってからのニコのライヴを観ていると、彼らが目指す場所は今までになくどんどん明確になっている。

私は、ニコは一つのジャンルに囚われることのない多面的な音楽性を持ちながらも、ポピュラリティの高い音楽を生み出すことを目指しているのだと思う。言葉にするとなかなかハードルの高い場所であるし、そこに辿り着くためにはたくさんの音楽リスナーを振り向かせなければならない。そして、それはとても厳しい現実なのかもしれない。けれど、今のニコに不可能はないと思えるのは、先に述べたコーラスにしてもアレンジ力にしても、他のバンドがやってそうでやっていないことが強みとして自分達の音楽性に幅を持たせたことにより、ポップでありたいのか、それともオルタナティヴなのか、そのかけ離れた音楽性の距離間ですら埋め尽くせる確かな力が今のニコにはあると確信しているからだ。

今月21日でメジャーデビュー10周年を迎えたニコ。彼らの観るたびに進化するパフォーマンスは、ロックバンドとしての可能性を広げるがごとくもがき続けてきたこの時間そのものであり、11年目以降の彼らを勇気づけ、背中を押し続けることになるだろう。そんなニコのストーリーの続きを、私はまだまだ追いかけたい。


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by musicorin-nirock | 2017-11-25 07:23 | MUSIC | Comments(0)

主にNICO Touches the Walls について書いておりますが、他にはGRAPEVINE と the HIATUS が好きです。記事の無断転載、引用はご遠慮ください。


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