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2/12 NICO Touches the Walls @billboard LIVE TOKYO 1st Stage

席に着くと、早くも手元にあるドリンクを半分近く飲み干してしまった。足繁く通う都内のライヴハウスとは違う空気感に、やはり緊張してしまう。私にとって人生2度目のビルボードライヴは、NICO Touches the Walls(以下NICO)念願の初ビルボードライブ公演、初日東京1stステージ。周りを見渡せば、もちろんTシャツにマフラータオルをぐるっと巻いた姿はなく、よそいきの格好でテーブルに着き、料理とお酒を目の前に、談笑しながら、皆その時を待っている。ライヴの当日午前4時5分に更新された光村龍哉(Vo&G)のブログによれば、今夜、NICOはどうやら『初めての挑戦』をするらしい。開演時間の19時が近づくにつれ、そわそわとした気持ちがさらに高まっていった。

場内が暗転されるとステージ上には飄々と光村、古村大介(G)、坂倉心悟(B)、対馬祥太郎(Dr)が現れた。「いつもと何ら変わりがない」といった様子でそれぞれ定位置に着き「Howdy!!」の掛け声と共に、まずは挨拶代りの“口笛吹いて、こんにちは”。するとドラムの振動が床を伝い椅子とテーブルに響いてきたが、それがとても心地良く、自然と体が動き出す。光村が<淋しがりな君がいる/もう大丈夫>と唄えば、対馬と古村によるコーラスワークも相まって、緊張がどんどん解れ徐々に会場は温まり始める。今夜の4人の出で立ちは、赤いバンダナを首に巻きダンガリーシャツを合わせた、まるでカウボーイのようなルックスだ。もちろん、馬に跨り牛を追いに行くのではなく、奥行きの狭いステージには彼らの相棒たちがズラリ。アコースティクギターが古村は3本、光村は2本。坂倉はベースが2本と背後にはウインドチャイムとタンバリンも。対馬のドラムセットの傍には赤くて小さな木琴が見え、それはまるでギャラリーのような光景。

そして、古村と坂倉のポジションにはスネアとタムがセットしてある。続く“手をたたけ”は二人は楽器を置き、ドラムスティックを手に力強く叩き出した。迫力ある3人のリズムに後押しされ、光村は活き活きと伸びやかな声でアコギを鳴らし歌う。間奏になると、肩に掛けたアコギをひょいっと背中に回し、対馬のドラムセット横にセットされていた光村用のスネアとタムの前に移動。4人のドラム・セッションが始まった。途中で古村、対馬、光村、坂倉の順番でソロ回しもあり、楽しむ4人の姿が、楽器を始めたばかりの少年達のようにだった。そこからメドレー形式で“THE BUNGY”へ。イントロから古村の速弾きが早々に炸裂し、光村のヴォーカルもかなりアグレッシヴ。アコースティックの原始的な音で演奏されることで、カントリー・ロックンロールの本性を暴きだす。4人のじゃじゃ馬は大暴れしたと思いきや、テンポを落とし光村がブルージーなハープを披露。息を飲むような展開の速さに早くも圧倒されてしまった。

「こんばんは!ACO Touches the Walls です!」と光村。月曜日にメンバー四人で会場の下見をし、「ちょうど、あの辺りで観ていた!」と3階を指差し、オーディエンスを沸かせる。今回の初のビルボード公演は、アルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』のリリース記念ライヴ。また、光村のブログには、ビルボードへの想いが熱く綴られていた。「夢が叶いまして嬉しい!ライヴハウスでは見れない事が、観れるんじゃないかなと思います。最後まで楽しんで行って下さい。よろしく!」

そして、ここからはメンバーも着席スタイルで。ステージの床にセットされたライトが彼らを下から照らす中、始まったのがスローテンポの“天地ガエシ”。オーディエンスに語りかけるよう光村は歌い始め、彼の声にしっかり寄り添う対馬のコーラスと、古村のブルースハープの素朴な音を聴きていたら、この曲が生まれた武道館リベンジまでのストーリーは「NICOの青春だったんだな」と、グッとくるものがあった。静まり返る会場に、囁きのような光村の歌声だけが響き、次第に対馬、古村が加わった3層の美しいコーラスワークによって、一気にムーディな夜の世界に引き連れていってくれた“夢1号”。動きのあるベースラインと腰に響くドラムの上をクルクルっと転がり続けるヴォーカル。ジャジーなアレンジがビルボードのラグジュアリ―な空間はぴったりだった。<真っ白な>ピンスポットがステージを照らし始まった“ホログラム”。2本のアコースティックギターとドラム、坂倉はベースをお休みさせてタンバリンとシャランと鳴らす。少ない音数だからこそ体感できるのが声の力。優しく、柔らかな声で歌う光村の佇まいは、どこか過去を懐かしむ雰囲気をまとう。また、古村のギターがフレーズも繊細でとても美しかった。

「良い曲だよな」。過去に何度も思ってきたことを、私は改めて思っていた。4人の演奏する姿に見とれ、音に聴き惚れ、時間が経つのも忘れて行く。続く“芽”では、対馬と坂倉による重みのあるビートが、大地を踏みしめているように逞しく、メッセージ性の強い歌詞に、心がぐらぐらと揺さぶられ、そして、次曲“Diver”で、対馬の躍動感あるドラムがガラリ空気を変えた。坂倉と共に生んだ熱いグルーヴが会場中を埋め尽くし、そこに光村のサビの高音が潔く放たれていった。

「楽しんでいますか?気持ちいいですね、非常に」。光村はここで思い出深いエピソードを話す。小学校6年生の春休みに、初めてアコギを買ってもらった光村少年。小学校の卒業祝いに、父親に御茶ノ水に連れて行って貰ったそうだ。彼が、初めて出来るようになった楽器が、アコースティック・ギターだった。しかし。楽器の扱いが雑で、バンドを始める前にヘッドの部分を落として壊してしまい、そのギターは自宅のベランダに放置され、数年前粗大ごみに出したという。ちなみに光村がどのくらい雑に扱っているかと言うと、高校生の頃自宅に遊びに来た坂倉が、うっかりそのギターを倒し謝られても、ちっとも気にしていなかった…。微笑ましくも、しっかりとオチのあるMCにオーディエンスは大爆笑。そして、この日のためには彼の“大先輩”である1965年製のアコギを購入。そして「かわいい音がする」大先輩を「ここからバキバキ弾き倒していきます!」と宣言。

再びスタンディングスタイルに戻り、対馬の掛け声にで始まった“Broken Youth”。ゆったりとしたカントリー調がとても心地良く、安心して聴き入っていられる…と思ったら、光村のアコギの弦が切れてしまうというハプニング!先のMCの件もあって光村本人も吹き出してしまうし、もちろんオーディエンスも笑ってしまう。チューニングがずれたまま演奏され「アコギの神様に怒られたみたいです」との苦笑いの光村。しかし、気持ちを持ち直し、再び4人のセッションから始まった“ニワカ雨ニモ負ケズ”で再び観客を圧倒。背後のカーテンが開かれると六本木の夜景が広がり、大きな歓声が上がった。披露された楽曲で一番セッション感が強かった。グルーヴの良さとシャープなギターが聴く側の気持ちを沸き立て、また、いつになく力強い歌声も印象的だった。

古村、坂倉、対馬が、盛大な拍手の中、先に舞台から降り、本編ラストは、光村の弾き語りによる“バイシクル”。これが衝撃的だった。光村がここまで自分自身を曝け出した姿を、私はいまだかつて見たことがなかった。体が空っぽになってしまうのではと言うほどの、凄まじい声量で歌い上げたのだ。この曲は元々ブルース色がとても強い。しかし、そこから生まれた新たな「決意表明」と言わんとばかりの強さがあった。それが光村の声と化したのだろう。ラストのサビでは、マイクを口から遠ざけ、生身の声だけを放つ姿は圧巻だった。歌い終えた光村は、彼のブログで予告した通りしっかり『爪痕』を残し、ビルボートのステージを後にした。

アンコールで再び4人が登場すると、彼らの『初めての挑戦』の種明かしが。「お気づきの方もいるとは思いますが…」と前置きをしつつ、今回彼らはアルバムの曲順通りにライヴをする、という再現ライヴに挑戦をした。「このアルバム1枚でライヴ、みたいな設定のCDだったので」と光村。これは正解だったと思う。アルバムの持つ臨場感がしっかりと堪能できたからだ。「最後にACO Touches the Walls 、新作やります」と妖艶なギターを光村が鳴らす。重たいディスコビートを効かせた、アダルティな“ストロベリーガール”。これは、かの有名なドナ・サマーの“Hot Stuff”を思い起こさせる絶妙なアレンジだった。六本木の夜の始まり告げるかの如く、光村は色艶あるヴォーカルを披露。このアレンジは彼らのお得意系でもあるが、この見事な演出っぷりにはお手上げであった。

ここビルボードライブは、日本国内だけではなく海外の名だたる有名ミュージシャンも立つ。よって、この日のライヴは彼らが手に入れた勲章でもあり、一つの試練…だと思っていたが、とにかく楽しそうな姿がだけが、今は胸に焼き付いている。初日の1stステージであり、続く2ndと翌々日に行われたビルボードライヴ大阪公演に比べると、若干硬さが観られたのかもしれない。しかし、4人の姿は楽器を始めたばかりの少年達のようで、今のNICOはバンドとして最高にグッドコンディションなのだろうとわかる。そのくらい堂々とした、威勢のいいライヴだった。メンバー退場時にはお馴染みのSE、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンの“Thank You For Your Love”が流れている。この曲も何度も聴いてきたはずなのだが、この夜、なんだか妙に胸に熱く響いてしまったのは、きっと私だけじゃなかったはずだ。



set list
1 口笛ふいて、こんにちは
2 手をたたけ
3 THE BUNGY
4 天地ガエシ
5 夢1号
6 ホログラム
7 芽
8 Diver
9 Broken Youth
10 ニワカ雨ニモ負ケズ
11 バイシクル

encore
1 ストロベリーガール

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by musicorin-nirock | 2015-02-15 11:53 | LIVE | Comments(0)

“ Howdy!! We are ACO Touches the Walls ” / NICO Touches the Walls

2月3日。

2月4日の発売日の前日に当たるフラゲ日。いつものように渋谷にあるタワーレコードまで『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』を買いに走った。無事に購入後、帰路に着き、色々とやることを済ませていたら、既に深夜近い時間。明日も仕事で早朝に起きなければならなかったが、せっかくなので、コンポの電源を入れた。


しかし、一度アルバム全曲聴き終えると私の頭に「?」が浮かぶ。いつものような衝撃がない。良くも悪くもサラリと聴ける。発売前に行われた先行視聴の時の、思わず胸が詰まってしまったような、感動が沸き起こらなかった。「こんなはずないだろう」と、それでもう一度聴いた。そして、はっきり答えが出てしまった。「正直、お腹いっぱいだ」。もう十二分にNICO Touches the Walls(以下NICO)の魅力をわかっているし、何よりこのアルバム収録曲が、彼らの代表的なシングル曲が8曲に、アルバム収録曲が1曲、そして書き下ろしの新曲1曲という内容であることが、不服だった。昨年2月にベスト盤をリリースしているのに。「なぜ、ここまでして過去の作品に拘り続けるのだろう?もう、十分証明したじゃない?」という歯痒さを感じてしまっていた。NICOの2014年を振り返ってみると、自身のキャリアを総ざらいするようなライヴを年中繰り広げ、無事、日本武道館公演のリベンジを遂げた。多彩な楽曲を生み出し、抜群の演奏力を持つバンドであることを、確実に証明し、彼ら自身も自分達を受け入れることができた。バンド結成10年目に相応しく、華やかかつ濃厚で濃密な一年間を過ごせたはずだろう。私自身も、2013年の1125(イイニコ)の日ライヴで、二度目の日本武道館公演のリベンジ宣言を受けて以来、彼らのリベンジを果たす姿を見届ける為に必死であった。これまであまり見せてこなかった剥き出しの姿に涙を零し、時に励まされた一年。彼らとの距離もぐっと近づき、最高のロックバンドであることを全身で体感してきたからだ。


それでも、しぶとく私はこのアルバムと向き合った。そして、少し時間がかかってしまったが、しばらく聴いていくうちに、このアルバムをリリースする必要性は100%あることを確信した。


元々はCD特典で付けていた、アコースティック・セッションを映像化したDVD『アコタッチと呼んでみて☆』を一つの形にしようというとコンセプトだったらしいが、目的はそれだけではないと思う。アコースティックとなれば、歌唱力、演奏技術、曲の持つ力そのものの全てがお見通しであり、言うまでもなく「実力」が試される。しかし、彼らは敢えてそのスタイルを貫き、持ち前のアレンジ力で、オリジナルとは違う新たな世界を構築させている。楽曲のクオリティの高さはさることながら、1人1人のプレイヤーとしての演奏技術も申し分なく、一発録りで挑んだことから伝わるスタジオの臨場感は、一度彼らのライヴに行ってみたいと思わざるを得ないほどに生々しい。また、デビュー当時から「ロック・バンドとはこうであるべき」と高い理想を持っていたNICO。理想と現実の狭間でもがき苦しみながらも、着実に身につけた自信と、強いバンドの結束力が培われていくうちに、若くして背負っていた様々なモノから解放されて行ったのだろう。切磋琢磨の10年間を経て、常に笑い声が絶えないような空気を纏う、今の彼らの姿を見ていると、やはりアコースティックが一番似合う。

今年でNICOは結成11年目を迎え、昨年武道館で約束したとおり、彼らは次なるリベンジを控えている。その為にはやはり、今までNICO Touches the WallsのCDを手に取ったことのない人達が手に取り、聴いてもらわないと意味が無い。アニメ主題歌やCMタイアップを勝ち取り、お茶の間を賑わした一面もあるからこそ、バンドの本質を見せなければならない。若手から中堅バンドへとステップアップしたことで、リスナーのバンドのとらえ方も変わるだろうし、求められるものも変わってくる。だからこそ、アコースティックという「難」な手段を選び、キャリア総括するような曲目を見直す。そして、初のビルボードのステージに立つことで、今の自分達を試そうとしているのだ。


今回の一件で、私は改めて彼らのポテンシャルの高さに脱帽し「お腹いっぱい」と思ってしまった自分が完敗したことを実感した。そして、初めてアルバム収録曲を1曲づつレビューする事を試みることにした。至らぬ部分もあると思うが、今までNICOの生み出してきた楽曲の良さを、やはり、たくさんの人に知ってほしい。また、アコースティックと聞けばどこか保守的なイメージがあるが、それとは逆に更に進化させてしまった姿を、是非体感してみて欲しい。そして、これは私の勝手な予測だが、今年彼らはアルバムをもう一枚出すのではないかと思う。ロックバンドとしてのプライドを賭けて。リスナーの胸ぐらをガッ掴む勢いで。堂々と、笑顔で差し出してくるはずだ。その時、彼らに一番似合うステージは、一体どこなのだろう?今は、ただただ、NICOの2015年に期待が膨らむ一方だ。



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①口笛吹いて、こんにちは
このアルバムの為に書き下ろされた新曲。イントロのメンバーによる口笛といい、陽気なモータウンビートといい、聴いているだけでハッピーになれる曲。NICOの曲は、主人公が孤独と向き合い、答えを見つけ出すためにもがく姿を歌う作風の曲が多い。その主人公が光村龍哉(Vo&G)自身やバンドであると、ここ最近の楽曲からは読み取れたが、サビで<寂しがりな君がいる/もう大丈夫>と、聴き手に手を差し伸べ<君に会いに行く>と、恥かしげもなく歌えるようになった。これは正しくリスナーに対する素直な気持ちであり、何より結成11年目の「逞しさ」が強く感じられる。


②手をたたけ
某携帯電話会社のCMソングであり、NICOといえば“手をたたけ”というイメージを持っている方も多いだろう。しかし、2013年の『1125(イイニコ)の日ライヴ』では「“手をたたけ”ばかりやってられない(苦笑)」と光村が本音を漏らした場面もあった(実際に、この日のライヴでは演奏されなかった)。とは言え、ロック・フェスではもちろんワンマンライヴでも必ず披露され、最後のサビではオーディエンスとのシンガロングも生まれる。やはりこの曲は、彼らにとって永久不滅のロック・アンセム。ヴォーカル・ギター・ドラムというシンプルな編成でアレンジされ、ドラムの力強いリズムによって、アイロニーが込められた歌詞とキャッチ―なメロディぐっと引き立ち、曲本来のタフさにガツンとやられる。


③THE BUNGY
“手をたたけ”からメドレー形式で“THE BUNGY”へと流れる。元々アッパーなアレンジではあるが、テンポアップしたことでさらにアグレッシヴな姿に変貌。ガットギターに挑戦したという古村大介(G)の速弾きのイントロには完全にノックアウトされてしまい、間奏部分の4人のソロ回しも、息をする間もないほどに目まぐるしく、これは実際に演奏する4人の姿を是非見てみたい。途中のブルースハープでブルージーにとルーツロックの香りがプンプンするが、今のNICOの「勢い」そのものと言うべき、生々しくも潔い、カントリー・ロックン・ロール。


④天地ガエシ
昨年8月に控えた二度目の日本武道館公演に向けてのリベンジソング。オリジナル自体t、アイリッシュの要素を活かしたアコースティック・サウンドであり、このアルバムの道標になっていると考えられる。ライヴで演奏されると、彼らの望んだサークル・モッシュがサビで沸き起こり、大変盛り上がる曲。しかし、テンポを落とし、歌詞とメロディをしっかり聴かせる事で、剥き出しの想いがひしと伝わってくる。まるで、彼らのリベンジの裏舞台を垣間見ているような気分になる。


⑤夢1号
光村の夢の中で生まれたメロディを、実際にそのまま曲にしてしまった、というエピソードを持つこの曲。小刻みなドラムアレンジを始め、ジャジーなバンドアンサンブルが非常に心地良い。また光村がスウィングを意識したというヴォーカルや、柔らかなファルセット。メンバーの美しいコーラスワークが醸し出す色気には恍惚としてしまう。4人が年齢を重ねるごとに、当たり前だが曲も成長していく。これはNICOが魅せた成熟の一面。


⑥ホログラム
先日、この曲の発売時、彼らが表紙を飾った音楽雑誌『音楽と人』(2009年9月号)の記事を改めて読んだ。初めてのアニメ主題歌ということで、曲に自我を投影せず、いかにたくさんの人に受け入れてもらえるかに重きを置き、作られた曲である。因みにメンバーは当時24歳。この転機に全力投球する4人のインタビューが瑞々しく、夢やロマンを追い求めるバンドマンとして姿が印象的だった。よって、それまでの楽曲とは作風が明らかに違う。でも、だからこそ生まれたグッドメロディであり、胸を打つ言葉であることを、このアコースティック・アレンジがはっきりと証明している。<真っ白な景色にいま誘われて/僕は行くよ/まだ見ぬ世界へ>という当時の真っ直ぐな気持ちを、29歳の光村はどんな気持ちで歌っているのだろう?彼の声が優しく体の細部にまで染み渡り、繊細なギターアレンジも非常に凝っていて美しい。


⑦芽
2ndアルバム『オーロラ』の収録曲。昨年の1125の本編ラストに披露されたことが記憶に新しく、また光村一人の弾き語りのステージでも何度か歌われている。何よりも、この曲は歌詞の持つ力にグッとくる。自分に与えられた命と向き合い、今を一生懸命生きていく全ての人々への、普遍的なメッセージソング。年齢と共に様々な経験を重ねてた彼らが演奏することで、オリジナルにはない説得力が生まれた。名曲である。


⑧Diver
一発録りの臨場感が良く味わえる曲である。特に対馬祥太郎(Dr)のドラムに注目して頂きたい。ポイントは躍動感あるスネア。1回し目のAメロからBメロに入る時、また、最後のサビへと向かう時のダイナミックな抑揚が、曲に大きな表情を付けドラマティックな演出している。通常ならば、バンドサウンドで隠れがちになってしまいがちだが、アコースティックだからこそ味わえるライヴ感がある。間奏のブルースハープはギター古村が担当。普段とは違う楽器に挑戦したこともバンドを楽しんでいる証拠だろう。


⑨Broken Youth
昨年の武道館では堂々の1曲目を飾った。疾走感漂うドラムのイントロが鳴り響くと、瞬く間にホール一体を多幸感で包み込んでしまったのだが、緊張の瞬間を4人と共に味わったこの曲は、大仕事を終え「ほっ」と肩の力が抜けたような開放感に包まれている。ゆったりとしたカントリーテイストで、思わず体を揺らしながらサビを口ずさんでしまいたくなる。音楽サイト『ナタリー』 で行われた「初アコースティック盤発売記念!メンバー全曲解説」 では坂倉心悟(B)が「不思議なほど自分たちにしっくりくるんですよね、このアレンジ。」と話しており、納得。今年メンバー全員が30代に突入する事もあって、大人の“Broken Youth”と呼んでみようか。でも、まだまだやんちゃな自分達でいたい、と歌っているような気もするが(笑)。


⑩ニワカ雨ニモ負ケズ
こちらもガットギターを使ったギターのイントロが印象的。スパニッシュテイストにアレンジされ、跳ねる光村のヴォーカルがラップのようでもあり、キーの高いサビではしっかり聴かせ、持ち前の底力を発揮。そして間奏のギターの速弾きは光村も担当し、本場スペインにも負けない情熱的な名演が繰り広げられている。細部にまでこだわり抜かれ、おしゃれに決めたアレンジではあるが、安定した対馬&坂倉のビートからは、裏を強く感じられるのでノリ易さもバッチリ。


⑪バイシクル
ちょっと長めに。昨年、武道館のステージでもアコースティックバージョンで披露され、大きな感動を観客に与えたこの曲。オリジナルは、まさに坂道を駆け降りていくようなアッパーなビートに、どこか青さが混じるギターサウンドで、聴き手に爽快感を与える非常にポップな仕上がりになっている。しかし、歌詞をじっくり読み返してみれば、赤裸々な感情がそのまま綴られていた。今回収録されているのは、披露されたバンド編成ではなく、光村1人の弾き語り。この“バイシクル”だけは、凝ったアレンジもなく、丸裸のままだった。しかし、静寂に満ちた始まりは、申し分なく、とても優しかった。そして、徐々胸に抱えた苦しみを吐き出すかのように、光村は、自分自身を曝け出していく。彼が小学生の頃から夢見たバンドマンになり、理想を手に入れたからこそ、向き合わなければならない現実があった。その狭間でもがき続けた姿を、何一つ隠すことなく、歌に託す。それが今、ようやく確かな物語となり、美しく奏でられている。一人一人に起こった問題やバンド継続の危機など、数えきれないくらい乗り越えなければならない事があったのだろうけど、その過程で得た事や経験が確実に成長させ、そして、音楽の中でしっかりと生きている。それが何よりも彼らの強みであることを、“バイシクル”は物語っている。




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by musicorin-nirock | 2015-02-11 10:21 | MUSIC

“ Burning tree ” / GRAPEVINE

先月28日にリリースされたGRAPEVINE(以下バイン)の約2年振りのニューアルバム『Burning tree』。今作品で13枚目。そしてレーベル移籍後初のアルバムでもあり、発売前から大きな注目を浴びていた。実際に「大傑作」と唸る音楽ライターの方々の声を、雑誌やTwitterで目にする度に「早く手に入れたい!」という気持ちを抑えきれなかったリスナーが、大勢いたのではないかと思う。勿論、私もその一人だった。

決して派手なアルバムではないが、オープニングを飾る“Big tree song”が、所々に加わる打楽器や、メンバーによるハンドクラップも入ったことでハンドメイド感が強く、温かみと、何より生命力に溢れており、そこに“KOL(キックアウト ラヴァ―)”と爽快で浮遊感あるギターロックが続いた事で、久しぶりに「ポップなアルバムだ」という手応えを感じた。しかし、この期待を良い意味で裏切るような、冷ややかな空気を纏うサウンドに合わせ、心理描写を歌う“死番虫”と、アコギとピアノのアンサンブル、その裏で鳴り続けるストリングス(チェロ?)という美し過ぎるイントロから胸が締め付けられ、思わず目が潤んでしまった“Weight”が、心の深い部分をゆっくりと抉り続けていく。中盤にかけては、移籍ソング“Empty Song”の勢いのある分厚いロックンロールに、80年代のディスコ・グルーヴを強く感じさせる“MAWATA”など、ライヴでノれる楽曲もあり非常にバラエティに富んでいる。しかし、アルバムの後半には、スケール感のある、壮絶なバンドアンサンブルが淡々と展開されていく。彼らが積み重ね上げてきた全てから、余計な物を削ぎ落とし、更に磨き上げたバインにしか描き出せない音風景。そして、ラストの”サクリファイス”を聴き終えた後「感無量」という言葉しか出てこなかった。

そして、そこに一人ぽつんと立つ、このアルバムの主人公がいることに気づく。ヴォーカル・ギターの田中和将だ。私が、このアルバムの「リリック」に注目せざるを得なかったのは、彼が今の自分自身を、素直にさらけ出してしまっていたからだ。

前作『愚かな者の語ること』では内輪ノリ的な内容の歌詞が多かった。バンドメンバーとのセッションから曲作りが始まり、出来上がった曲に合わせ言葉遊びを交えながら、実験感覚で言葉を乗せていく。そんな空気感が全体的に漂っている。しかし『Burning tree』では、今の田中そのままの姿が、切々と綴られている。彼に芽生えた父性が、次の世代への愛や希望を願う。また、20年以上バンドマンをやってきたキャリアから見える自分自身に、どこか諦めを感じながらも、自問自答を繰り返す事で「生き抜いてやる」という底力を見せる。その背景には、明らかに彼が「死」を意識している事も実感できる。そして、メロディに乗る彼のヴォーカルからは、静かな情熱がひしと感じられるのだ。

かつて、田中が自分自身の過去と向き合い、初めて作品として生み出したのが3rdアルバムの『Here』である。表題曲の“here”では、自身の過去を辿り、もがき続ける心模様を淡々と描きながらも、<君や家族を/傍にいる彼らを/あの夏を そういう街を/愛せる事に今更気付いて>と「受け入れよう」と、最後の最後で力強く放つ。ところが、私はこの『Here』をどうしても好きになれなかった。どことなく痛々しく、何度聴いても辛い気持ちになってしまう。そんな単純な理由だ。しかし、それ以降のバインを聞き続けていくうちに、田中にとっては、音楽の中で過去と向き合うことが、大切な作業である事を実感していく。『Here』以降の作品にも、彼のもがきは顔を出すが、そういった過程の中で、表現者として確実に成長を遂げていく。そして、『Burning tree』で彼は、今でも一人抱えているであろう哀しみや痛みを、アルバムのテーマに変えたように感じる。それは、時と共に「受け止め方」が変わったと言えるし、何より、優れた作品を生み出そうとする、ミュージシャンとしてのプライドが、垣間見えるのである。

アーティストが表現し続けていく中で、作品に身を投げ出さねばならない瞬間は、必然的に起こってしまう事なのだろう。自分をさらけ出す事は、言ってしまえば一つの「賭け」だ。独りよがりになってはならないし、第一受け入れてもらえるか、今まで付いてきてくれたリスナーの反応が、アーティストの未来を決めてしまうとも言い切れる。しかし、さらけ出すことによって、歌詞に奥行きにが生まれ、サウンドはさらに成熟する。リスナーから見ても、アーティスト像が明確になることで、生み出されたが作品がよりリアルに心に届くのだ。

今回、田中の書いた「リリック」は、曲のクオリティを上げる為の選択肢の一つだったとしても、人間臭いこのアルバムを聴いて、何も感じる事の無い人はいないだろう。なぜならば、内に秘めた情熱がさらけ出されたことで、バインは自らが<燃えるような存在(サクリファイス)>であることを、はっきりと証明しているからだ。曖昧さを好むバインが見せた生々しさは、人を強く惹き付ける。間違いなく、私の人生に於いても確実に、響き続ける一枚になるだろう。


Burning tree (初回限定盤)

GRAPEVINE/ビクターエンタテインメント

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Burning tree (通常盤)

GRAPEVINE/ビクターエンタテインメント

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by musicorin-nirock | 2015-02-04 21:43 | MUSIC | Comments(2)

主にNICO Touches the Walls について書いておりますが、他にはGRAPEVINE と the HIATUS が好きです。記事の無断転載、引用はご遠慮ください。


by タナイユウ
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